睾丸(精巣)がはれてきた、陰嚢が大きくなってきた
入浴中などに突然、自分の睾丸(精巣)が腫れているのに気づく。痛みも何も無い。大きくなったからいいことだろうとは、おそらく誰も考えないでしょう。でも、医者にかかるには何となく恥ずかしい。悩みに悩んだあげく、泌尿器科を受診された患者さんを今まで何人も診てきました。さて、このような場合、どういう疾患を考えるでしょうか。
まず、考えるべき疾患は「陰嚢水腫(いんのうすいしゅ)」ですが、これは陰嚢内(睾丸の周り)に水が溜まる病気です。小児の一部を除いて、多くの場合原因不明です。根治するためにはやはり1週間程度の入院による手術が必要ですが、針穿刺によって内溶液を吸引したり、吸引後に薬剤を注入して固定するなどの姑息的な治療法もあリます。基本的には悪性の病気ではありません。超音波検査によって簡単に診断がつきます。
その他に考えなくてはならないのが、睾丸(精巣)の腫瘍です(図1)。これは、青壮年期の男子に多く(日本人では白人より頻度は低い)、通常痛みを伴いません。出生児の停留睾丸(精巣)や、性分化異常などが発生に関連していると考えられていますが、これも原因ははっきりしていません。一般的に悪性で、放置すると転移進展し死に至ります。腫瘍マーカーと呼ばれる血液学的な指標があり診断に役立ちますが、超音波検査も同様に診断に有効です。腫瘍と診断されれば、まず精巣を摘除し、病理学的に組織型を判定します。さらに、全身の画像検査によって、転移の検索を行います。組織型にもよりますが、一般的には転移が見つかれば化学療法(抗癌剤治療)や放射線療法を行います。転移があっても、適切な治療を受ければ多くは完治します。
睾丸の痛みを伴う腫大では、感染症(睾丸炎や副睾丸炎)や精索(精巣への血管や精管の束)の捻転(ねんてん・精巣捻転ともいう)を疑います(図2)。感染症では投薬による治療を、精索の捻転では整復術あるいは睾丸の摘除術が行われます。なかでも、精索捻転症では、発症後6-10時間のいわゆるgolden time(回復可能な時間)を過ぎると、整復(手術あるいは用手的に)されても睾丸そのものが壊死していることが多く、捻転が疑われれば早期に手術を受けていただくのが望ましいと考えられています。